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2 アジア通貨危機支援の全体像

本章では、通貨危機に見舞われたアジア経済の再生に向けた、日本の支援に関わる一連の政策・施策をレビューし、日本による支援の枠組を総括する。

2.1 表明内容

日本政府が行った支援表明は3つに分類することができる。第1は、日本国内の経済対策とともに表明された「アジア支援策」2、第2は1999年8月に発表された、今後5年間程度の政府開発援助の方針を規定する「政府開発援助に関する中期政策」、第3は「新宮沢構想」と「経済構造改革支援のための特別円借款」である。この3つの支援表明により、日本のアジア支援は短期の経済安定化から中長期の経済発展の支援までカバーする包括的なものとなった。

2.1.1 「アジア支援策」

「アジア支援策」は以下のタイミングで3度表明された。

  • 「東南アジア経済安定化等のための緊急支援策」(1998年2月20日発表)
  • 「総合経済対策」におけるアジア支援策(1998年4月24日発表)
  • 「緊急経済対策」におけるアジア支援策(1998年11月16日発表)
これらの「アジア支援策」は、ODAの資金だけでなく、旧日本輸出入銀行の資金を用いた支援(当該国政府等への直接支援、現地日系企業子会社への支援を通じた支援等)なども含む包括的なものであった。その概要は表2-1に記すとおりである。

表 2-1 アジア支援策の概要

  ODAによる支援 ODA以外の支援
東南アジア経済安定化等のための緊急支援策(1998年2月20日発表) インドネシアへのコメ、医薬品など生活必需物資の支援
東南アジア諸国からの留学生に対する支援
日本輸出入銀行融資枠の確保(3000億円)
貿易保険の積極的運用
「総合経済対策」におけるアジア支援策((1998年4月24日発表、7000億円程度) 円借款の活用等による経済改革支援(既存施設の回収や環境分野へ5000億円の円借款)
人材育成等環境整備
食糧・医療品等の支援
貿易金融の円滑化等支援
「緊急経済対策」におけるアジア支援策(1998年11月16日発表、1兆円程度) 円借款の供与
無償資金協力等の活用による経済・社会基盤の整備、社会的弱者救済等の諸問題への対処
日本輸出入銀行の融資
アジア通貨危機支援資金による利子補給および保証
出典: 内閣府のホームページ(http://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/1998/19980424taisaku.html, http://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/1998/19981116b-taisaku.html)より作成

これらの支援策の中で最もODAを用いた支援を表明している「総合経済対策」におけるアジア支援策を概観する。

「総合経済対策」におけるアジア支援策では、通貨・金融の混乱により経済的困難に直面しているアジア諸国の経済安定化や構造改革支援のため、IMFなどの国際金融機関や、G7諸国等と協調しつつ、外貨不足等により困難な状況にあるアジア諸国経済の早期安定化に資するよう、1. 貿易金融の円滑化等を支援すること、2. 円借款の活用等により社会的弱者等にも配慮しつつ経済構造改革を支援すること、3. アジア諸国の長期的経済発展や雇用確保等に資するため、人材育成等の支援を強化すること、4. 食糧・医療品等生活必需品確保のための支援を行うこと、の4項目を骨子としていた。各重点項目は以下の特性を持っているが、このため、総額7,000億円程度の資金を確保することが明確にされた。

貿易金融の円滑化等支援

財政投融資を適切に活用し、日本輸出入銀行のツーステップローン、投資金融および輸入金融により、貿易金融の円滑化および現地日系企業等のアジアにおける投資活動の支援等を行う。

円借款の活用等による経済改革支援

経済改革支援を目的とした支援は、円借款を中心に据えながらも、ノン・プロジェクト無償や技術協力を絡ませた総括的な効果を狙う支援スキームを打ち出した。それには以下の支援が含まれた。

  • アジア諸国の経済構造改革に資するため、政策支援アドバイザー、専門家チーム派遣・研修員受け入れ等の技術協力
  • 経済構造改革支援のための円借款供与およびノン・プロジェクト無償資金協力
  • 通貨価値が大きく下落した国に対し、最近の為替レートに従い計算した所得水準に基づく円借款金利の適用
  • 円借款による中小企業、裾野産業育成および農業・農村等支援
  • 円借款案件等の円滑な実施を確保するため、ローカルコスト支援
  • 構造改革支援のためのプロジェクト発掘支援の強化
  • アジア諸国を対象に向こう3年間で5,000億円を目途として、既存施設の改修等や環境分野への円借款供与を促進する

人材育成等環境整備

人材育成への支援に関しても、以下の項目を含む多様な施策を複合的に実行することが表明された。

  • 人道・医療・保健対策等の観点から、無償資金協力の活用、研修員受け入れ・専門家派遣等の技術協力の活用、国際機関を通じた対応の強化
  • 雇用確保等のための民間技術者等に対する研修、技術・経営分野の民間専門家の派遣
  • 我が国における留学生受け入れ体制の充実。また、優遇された条件の円借款を活用した留学生支援
  • アジア諸国の貿易・投資促進のための支援
  • 社会的弱者救済・貧困の改善に資するASEANの開発戦略の支援・地域的プロジェクト発掘などのため、ASEAN基金に対する新たな拠出等

食糧・医療品等の支援

インドネシアにおける食糧不足を解消するため、新たな緊急食糧支援の仕組みを活用し、政府米50万トンを同国へ貸付けるとともに、無償資金協力等により、10万トン程度を国際市場から調達し供与することなど、緊急支援の骨子が決定された。 同時に、農業生産に必要な機材・肥料等の供与により食糧増産支援および無償資金協力により医薬品等人道支援を行うことが表明された。

2.1.2 政府開発援助に関する中期政策

政府開発援助に関する中期政策は、政府開発援助大綱(ODA大綱)のもとに位置付けられ、政府開発援助に関する5年ほどの政策を包括的に定めたものである。現在の政策は1999年8月10日に策定されており、重点課題の1つに「アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援」を挙げている3。ここでは、1999年現在にはアジア諸国の緊急的な資金ニーズは満たされてきているとして、今後は中長期の経済成長を支えるための支援が必要であると述べている。そして、このようなアジア諸国への支援が、日本の経済にも裨益すること、さらに、世界経済の健全かつ持続的な発展にも寄与するとしている。

このような現状認識の下で、以下の支援を行うとしている。

  • 他の公的資金との役割分担と連携を重視しつつ、インフラ整備、技術移転、中小企業振興や裾野産業育成への協力
  • 国際金融機関等とも連携しつつ、途上国の経済回復のために社会的弱者支援を中心とした支援や、さらには法制度や金融セクター、経済制度などの制度改革への支援
  • 特別円借款を通じた、民間投資にとって魅力ある事業環境の整備と生産性の向上
  • 予防のための途上国国内の金融システム強化と、中核人材の育成や企業経営・技術力の向上のための協力

2 この報告書の全体の文脈である「アジア通貨危機に対する日本のアジア支援策」と区別するためにカッコ付きで記す。

3 他には「貧困対策や社会開発分野への支援」、「経済・社会インフラへの支援」、「人材育成・知的支援」、「球規模問題への取り組み」、「紛争・災害と開発」、「債務問題への取組」が重点課題として挙げられている。




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